糀といえば、金沢・大野  世界の人が魅力を感じるものがここにはある

発酵食大学が生まれるきっかけとなった、ヤマト醤油味噌の「糀部」。その生みの親が山本社長です。醤油の里・金沢大野で100年余の伝統を受け継ぐ老舗に生まれ育ち、4代目として常に革新的な試みを続けています。甘酒や発酵ブームに先駆けて「糀」を使った数々のユニークな商品開発を手がけ、和食の良さを積極的に発信している山本社長。商品づくりやお客様とのコミュニケーションで大切にしているもの、これから見つめるものを伺いました。

株式会社 ヤマト醤油味噌 代表取締役
山本 晴一(やまもと せいいち)さん
1957年石川県金沢市大野町生まれ。埼玉大学卒。在学中に北米のオレゴン大学に留学。卒業後、地元の酒造会社で修業を積み、1983年に家業の「株式会社ヤマト醤油味噌」に入社。2005年、代表取締役社長就任。

大野醤油の歩み

金沢・大野が醤油の産地になったのは江戸時代です。当時、金沢は江戸、大阪、京都に次ぐ第4の都市でした。そこに、白山水系の豊かな「水」、湿潤な「気候」、地元の大豆や麦・塩などの「素材」、北前船による「流通」の“4つの利”があった。そうした土地の恵みによって、大野は全国の5大産地のひとつに発展していったんです。



加賀藩の庇護のもと大野醤油が重宝されたのは、武家の“ハレの料理”です。婚礼や祭礼時の特別な料理ですね。藩主の前田家は京風文化を取り入れていたので、京風のだしに合う味わいが必要でした。また、武家のおもてなしの味といえば「甘み」。その結果、大野醤油は、「まろやかなコク」と「甘み」が持ち味になった。加賀料理に「治部煮」や「鯛蒸し」があるでしょう。あの甘辛い味付けは、金沢のお侍が大好きだった味なんです。

当社の初代はもともとは北前船の船乗りでした。やがて醤油・味噌を扱う商社を始め、2代・3代がそれらを作るようになりました。以来、醤油や味噌に欠かせない「こうじ(麹・糀)」も自社で作っています。「料理の味をまろやかにし、素材のうまみを引き出すこうじをもっと知ってほしい」との思いはずっと心の中にありましたね。だからこそ4代目を引き継いでからは、醤油・味噌だけでなく、糀を使った新しい商品づくりを始めました。

甘酒と糀部

2000年に、玄米菜食の提唱者・久司道夫(くしみちお)先生が来店されて、「今、出回っている酒粕の甘酒は日本古来の甘酒じゃないよ。米と糀と水だけでできる本物の甘酒をつくりなさい」と勧められました。確かに、糀甘酒は消化吸収が早くて栄養分補給には最適な食品。江戸時代には「飲む点滴」と言われていたほどです。しかも酒粕甘酒だと、アルコールが入っているから誰もが飲めないじゃないですか。「これはいい!」と量産を考えたものの…糀甘酒は菌によって商品が変質しやすく安定供給は難しい。そのときは、解決手段がなくて諦めていました。

ところが、それからまもなく化学的知識に詳しい実弟(現工場長・山本晋平氏)が入社。ストレートつゆの製造の際に「無菌充填」の技術を導入したことで、常温で長期保存できる甘酒の生産が可能になったんです。2005年には専用工場を立ち上げ、生産開始にこぎつけることができました。

しかし、そのまま順風満帆とは行きませんでした。作ったものの、発売から3年たっても全く売れなかったんです。今思えば、「本物の甘酒を作りたい」という一念で突っ走ったので、どう世の中に知ってもらうかまでは考えが及んでいなかった。売れなかったのも当然です。当時はまだ糀甘酒のことなど誰も知らなかったんですから。

ちょうどその頃は、2011年の創業100年を前に「次の時代に向けてどういう企業であるべきか」と原点に立ち返っていた時期でもありました。浮かび上がってきたのは、長年、発酵食品に携わる企業として「日本の伝統食である和食の継承、それを支える発酵食の知恵を普及しなければ」という使命感でした。その中から、「私たちは、発酵食文化を通して、お客様の健康で喜びに満ちた食生活実現のお役に立ちます」という経営理念が生まれたのです。

2010年には甘酒製造の技術を応用した「塩糀」を開発して、糀調味料の普及活動をスタートしました。それが「糀部」です。「どうしたら、糀のよさが伝わり、毎日の食事で習慣的に使ってもらえるか」と、ウーマンスタイルさんとあれこれ知恵を絞り、約10名の生徒が塩糀や甘酒を使って美味しく健康的な調理法を学ぶ“部活動スタイル”の料理教室を生み出しました。

「糀」という未知の分野に恐る恐る足を踏み入れた生徒さんたちでしたが、回を重ねるごとに「料理上手になったみたい」「お通じがよくなった」「息子のニキビが消えた」と積極的にクチコミするようになり、すごい手応えを感じましたね。SNSでも話題を呼び、NHK「あさイチ」で放映されるほどの大きなムーブメントになっていったのには驚きました。作って食べて、美味しさや効果に感動した方々の“声のチカラ”の影響力を知った経験でした。

その後、かぶら寿しや日本酒など石川の発酵に関わる企業が協力して「発酵食大学」が立ち上がり、県内独自の発酵食品の魅力や活用を広める動きにつながっていきました。石川県や金沢市も活動を後押ししてくれ、“発酵王国石川”を盛り上げるきっかけになったのも嬉しい収穫でした。

発酵食大学の良さは、「大人の学校」であるという点。若者の学びは知識の詰め込みになりがちですが、大人は習ったらすぐ実践できる。そして良かったらすぐに周囲に広めて一緒に楽しめる。発酵の学びは“一生の健康に役立つ学び”なので、ぜひ共に学びながら深めていってほしいですね。



私は発酵食大学本校の「醤油」講座はもちろん、武蔵小杉校にも出前講座にも行っていますが、これがまた面白い。石川のことをあまりよく知らない生徒さんたちがほとんどの中、絞りたての醤油を味わうと、「いつもの醤油と全然味が違う」「お刺身につけたら絶対おいしそう」とすごく盛り上がって、石川の食のイメージがグーンとアップするんです。やはり「食べて伝えるのが一番」なんです。

世界の人々が集う「糀のまち」に

こうした反応は、実は海外でも同じです。当社は2000年から海外にも進出し、10か国以上との取引がありますが、強く感じるのは「食の商いは世界共通」ということ。食べて味に納得したら買っていただける。さらに気に入ったらリピートしてくださる。海外向けの特別な商品でなく、日本で売っている商品がそのまま受け入れられている。お客様の反応から、金沢のレベルは相当高いと感じますね。海外でも通用するのは、金沢の食文化のおかげだと感謝しています。

世界中に類似商品が多い中、わざわざ当社の商品を選んでいただけるのは、「ここでしか作れない商品」だからこそ。それは、金沢・大野の歴史や風土、長年かけて蓄積した発酵技術などの「変えないもの」と、時代のニーズを捉えて「変えるもの」の融合で完成されるものと思っています。

2019年、大野は北前船の歴史的文化遺産が残るエリアとして「日本遺産」に認定されました。これをきっかけに、風格ある町並みと港町の情緒を背景に、古くから根づく発酵食を堪能できる「糀のまち」としてさらに多くの方に訪れてほしいですね。国内外の人々が発酵食の良さを知ることができる拠点として、これからもどんどん魅力あふれるチャレンジをしていきたいと思っています。

 

株式会社 ヤマト醤油味噌について

歴史

1911年(明治44年)、当時の海上輸送で活躍した「北前船」で味噌・醤油を売り、それを元手に買い入れた海産物や材木を取り扱う商社として創業。代々の当主が時代の変化をよみ革新的な挑戦を続ける中、醤油、味噌の製造を手がけるようになりました。近年は、塩糀・甘酒・だし・いしるなど「糀を使った発酵調味料」全般の開発・製造・販売に取り組んでいます。

また、日本の伝統的な和食の良さを次世代につなげるため、「一汁一菜に一糀」をテーマにさまざまな活動を展開。本社工場に隣接する「糀パーク」を拠点に、体験・発酵食レストラン・料理教室・ショップなどを通じて、現代のライフスタイルに活かす発酵食品の知恵を提案しています。

大野醤油

金沢の北西部に位置する大野は、江戸時代から北前船の寄港地として栄え、元和年間(1615~1624)には加賀藩の奨励によって醤油づくりが始まりました。北前船貿易の流通網により大野醤油は全国に広まり、野田・銚子(千葉県)・龍野(兵庫県)・小豆島(香川県)と並び、醤油の五大産地としてその名を馳せました。

特徴とされる味わいは、まろやかなコクとうま味(甘み)。加賀藩の武家好みの味わいであり、今に受け継がれる雅な加賀料理の風味のベースになっています。日々のおそうざいの味付けにも使いやすく、金沢市民の食卓に欠かせない調味料です。

ヤマト醤油味噌の商品の特徴

ヤマトの味噌は、80年以上受け継ぐ木桶で、半年~1年以上(一般的な醸造より3~6か月以上長い)熟成させて醸造しています。木桶や蔵の中には「蔵付酵母」と呼ばれる独自の酵母が生きており、味わい深い風味を醸し出します。長年かけて作り上げた独特の味わいは蔵の財産であり、食の専門職人たちが納得いくまで手間暇惜しまず向き合っています。

また、原材料すべてに国産品を使用した「YAMATOブランド」、酵素活性のある「活酵素」を取り入れた商品など、健康的でおいしい毎日の食生活の質の向上に日々努めています。

■株式会社 ヤマト醤油味噌

住所:石川県金沢市大野町4丁目イ170
URL:https://www.yamato-soysauce-miso.co.jp/

オンラインショップ:https://shop.yamato-soysauce-miso.co.jp/

 

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