種麹屋・菱六 助野さんに聞く、麹づくり


京都・東山、清水寺へと続く坂道の途中に店を構える種麹屋「菱六」。酒蔵や味噌屋、醤油屋、焼酎屋に、麹菌を培養して使いやすく加工した「種麹」を届け続けている、いわば麹づくりの一番はじめを支える存在です。菱六
過去には発酵食大学の京都校開講にあたり、菱六の助野社長を頼ってお伺いしたという経緯があります。もちろん京都校の麹の講座を担当していただいていたことも。
今回は、菱六さんが主催する大人気の「麹づくり体験講座」にゆりやんも参加させていただきました。

種麹屋 菱六とは

いまでは日本で10軒もないとされる、種麹屋。麹菌を培養し、酒蔵・味噌屋・醤油屋・焼酎屋向けに種麹として届けています。
助野社長:菱六は京都・東山にあります。店の前の道をひたすら東に歩いていくと、最後は清水寺に突き当たる。南に行けば、歴史の教科書に載っている空也像で知られる六波羅蜜寺があって、平安時代には平家の屋敷がたくさん建っていたようなところです。
看板には「京都ひしろく」のマークと一緒に「根元麹種もやし」と掲げています。「根元」というのは、麹を使った発酵食品の元をやっているという自負から。「麹種」は麹の種であること、「もやし」はもともと米の「糵(もやし)」という古い言葉に由来しています。

発酵食品を支える、カビ・酵母・細菌という小さな働き者たち

私たちが口にしている発酵食品は、大きく分けると「カビ」「酵母」「細菌」という3種類の微生物によって生み出されています。これらが単独で、あるいは複数が力を合わせて働くことで、発酵食品ができあがるんです。

麹菌
日本の発酵調味料に欠かせない麹はカビの仲間。麹を使った日本の発酵食品でいうと、甘酒、泡盛、焼酎、本みりん、清酒、醤油、味噌、それに静岡の浜納豆や京都の大徳寺納豆・一休寺納豆(こちらも名前に「納豆」とつきますが、麹菌を培養したものです)、醸造酢、麹漬けや甘酒漬けといった漬物まで、実にさまざまです。きっと皆さんのお住まいの土地にも、それぞれの発酵の味があるんじゃないかと思います。
調味料の基本「さしすせそ」も、実は麹と縁があります。「し(塩)」は塩麹で、「さ(砂糖)」は本みりんや甘酒で置き換えられる場面が多い。サステナブルということも、案外、麹絡みで何とかなるんじゃないかと勝手に思ったりしています。
もう少し具体的に言うと、カビの代表は麹、酵母は清酒用酵母や耐塩性の味噌・醤油用酵母、パン酵母、ワイン酵母、細菌は乳酸菌や酢酸菌、納豆菌といったところです。

麹とは何か ― 発酵がもたらす4つの恵み

麹という漢字には、麦へんの字と、米へんに花と書く字の2種類があります。後者は江戸時代頃、日本で作られた国字だといわれているんですよ。
発酵とは何かを言葉にすると、「微生物またはそれらの酵素の働きを利用して、材料や原料の性質を変化させ、人間の役に立つ物質や食べ物などを作り出す手段」ということになります。ポイントは、人間の役に立つかどうか。そこに尽きると思っています。
発酵食品の良いところは、大きく4つあると考えています。

一つ目は保存性が上がること。大豆はそのままだとそれほど日持ちしませんが、麹と塩を混ぜて発酵させることで、長期間食べられる味噌に変わります。
二つ目は消化吸収しやすくなること。味噌はすでに麹の酵素でタンパク質が分解されているので、大豆をそのまま食べるよりもスムーズに消化吸収されます。
三つ目はおいしくなること。酵素反応によってタンパク質の一部がグルタミン酸などの旨味成分に変わります。醤油や味噌はその代表格です。
四つ目は良い香りがすること。日本酒は原材料が米と水くらいしかないのに、麹菌と酵母が働くことで、どういうわけかバナナのような、果物のような香りが生まれる。これも発酵の力だといわれています。

種麹屋という仕事 ― 麹菌を「使える形」にする

私たち種麹屋は、麹菌を培養して、酒蔵さんや味噌屋さん、醤油屋さん、焼酎屋さんに「種麹」として販売する仕事をしています。種麹は、私たちの業界では「もやし」とも呼びます。
麹菌自体は、シャーレや、スラントという試験管に培地を入れたもので保管しています。理科の実験室のような形ですね。ただ、保管はそれでいいのですが、その状態のままいきなり蒸し米に振りかけて麹を作れと言われたら、私たちでも無理です。そこに、種麹屋の存在価値があるんじゃないかと思っています。
実際には、お米に生やして世代を一つ進め、たくさん胞子をつけたうえで、培養するだけでなく乾燥させて日持ちするようにし、さらに粉状に加工するなど、使いやすい形にするところまでやっています。ここまで仕上げておけば、酒蔵さんや味噌屋さんは、蒸したお米にこの種麹を直接振りかけるだけで、ダイレクトに麹づくりをスタートできる。だからこそ、種麹は今も重宝されているんだと思います。

さっそく麹作りの工程をご紹介します!(3日間の麹作り合宿のレポート)

麹作りの工程(家庭レベルでの麹作り)

0日目

【浸水】米を洗って一晩浸水させます。前日の作業になります。

1日目

【水切】浸水させた米を1時間程度かけてしっかりと水を切ります。
【蒸し】蒸し器にお湯をたっぷり沸かし、水切りした米を布でくるんで約40分程度蒸します。

麹づくり蒸し


【放冷】蒸しあがった米は広げて45度程度まで温度を下げます。
【種切り】米に種麹をふりかけます。米粒一粒一粒にしっかりと麹菌が着くように揉み込むように麹菌を付着させます。
【床】布に包んで一つにまとめ、保温器に入れ、約1日保温します。

2日目

【盛り】約24時間後広げて拡散し、麹箱へ全量もどす。

麹づくり切り替えし
【仲仕事】約2時間後麹蓋に移し中心部分に米をあつめ、真ん中は手で凹みをいれて発酵器に入れる。
【仕舞仕事】約5時間後麹蓋で全体を広げ中心部分に米をあつめ、真ん中は手で凹みをいれて発酵器に入れる。

麹作り仲仕事

3日目

【出麹】約12時間後、発酵器の麹を取り出す。固まっているものをバラバラにして冷まし麹が完成。

麹作り完成
かなり素人にはハードルの高い時間管理と温度管理があり、難しいです!これは1人でできるのだろうか・・・。とちょっと不安になりました。
でも出来上がった麹は助野社長も過去最高の出来になった!というぐらい素晴らしい出来だったとのことで、やはりこんな美しい麹ができて、しかも自分で作れたとなるともう感動しかありません!

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麹づくり体験を始めたきっかけ

菱六さんの蔵のある界隈には、同業のもやし屋さんが使っていた建物が残っていました。それを県外の会社がリノベーションして、おしゃれな町家風の建物に生まれ変わらせたのだそうです。
リノベーションを手がけた人からは「麹室が三つあったけど、一つだけ残してあるので見に来たらどうですか」と声をかけられ、実際に足を運んだという助野社長。そこで軽い気持ちで「ここで麹づくりできるかもね」と話したところ、「じゃあやってみますか」という流れになり、試しにやってみたらうまくいった。そこから「じゃあやりましょう」と、麹づくり体験講座が始まったそうです。
最初は2日間の開催で、時期は2016年頃。コロナ禍前から続けていましたが、当時は参加者30人規模で麹蓋を60枚も運ぶなど、準備や運搬がかなり大掛かりだったこともあり、コロナ禍で一旦中断。コロナが落ち着いた2023年4月から、菱六の蔵であらためて再開しました。
それから毎回大人気ですぐに枠が埋まってしまうほどの講座になっていきました。

参加者の反応など

参加者のレベル感は「まちまち」だと助野社長は言います。麹づくりの経験がほとんどない人から、かなり詳しい人まで幅広く、毎回冒頭で参加者に麹づくりの経験の有無を聞いてから、説明の進め方を調整しているそうです。
中には、麹づくりを教える活動をしている人や、麹づくりの専門団体に関わっている人、酒蔵の関係者など、いわゆる「マニアックな」参加者も。
一方で、特に目的を言葉にできないまま「なんとなく興味があって」参加する人も多いといいます。助野社長いわく、「たぶんほとんどの人は、家庭での手づくりに関心があって、その入り口として体験講座に来てみる、という感じだと思う」とのこと。
中には、講座で学んだ後に「麹屋をやります」と報告してくれる人や、実際にプロの麹屋のもとで修行を始める人もいるそうです。
助野社長自身、体験を通して「やった感」や達成感を得て、楽しんで帰っていく参加者の姿が、続けてきた何よりの理由になっているようでした。

助野社長

麹づくり用語集

麹づくりの工程で使われる基本用語を、作業の順番に沿って整理しました。「種切り」から「仕舞仕事」まで、それぞれの作業が工程のどの段階で、何のために行われるのかがわかるようにまとめました。

種切り(たねきり)

蒸したお米に種麹(もやし)を振りかけて、均一に混ぜる作業です。麹づくりの最初のステップで、お米にカビの胞子を「植え付ける」工程にあたります。

盛り(もり)

種切りのあと、保温して発酵・発芽が進むとお米の塊から発熱し始めます。このタイミングでお米を麹蓋や麹箱などの浅い容器に小分けにして広げる作業が「盛り」です。塊を分散させることで、容器ごとに温度や水分をコントロールしやすくします。

切り返し(きりかえし)

お米を手で崩して上下を入れ替えるように混ぜる作業全般を指す、総称です。麹菌が育つ過程でお米自体が発熱し、呼吸によって水分やCO2がこもるため、それを均一にして余分な熱や湿気を逃がす目的で行います。工程中に何度か行われ、下記の「仲仕事」「仕舞仕事」は、この切り返しを行うタイミングを指す呼び方です。

仲仕事(なかしごと)

「盛り」のあと、工程の中盤で行う切り返しを指します。麹菌の活動が最も盛んになり温度が上がりやすいタイミングなので、ここで一度しっかり混ぜて熱を放出させ、菌の生育ムラをなくす目的があります。

仕舞仕事(しまいしごと)

仲仕事のあと、工程終盤で行う最後の切り返しです。麹が完成に近づいたタイミングで行い、最終的な温度や水分を調整して仕上げます。これが終わると、麹室から麹を取り出す「出麹(でこうじ)」の工程に進みます。

工程の流れ

全体の流れは、種切り→盛り→仲仕事→仕舞仕事→出麹、という順番で進みます。「切り返し」はお米を混ぜる作業の総称であり、「仲仕事」と「仕舞仕事」はその切り返しを行うタイミング(中盤・終盤)を指す言葉という関係になります。

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このブログを書いた人 発酵食大学のゆりやん

発酵食大学ゆりやん2013年に石川県の醸造メーカーの協力を得て発酵食大学を立ち上げました。企画会社である株式会社ウーマンスタイルの代表取締役でもあり、「石川県をキャンパスに見立てて発酵を学ぶなら石川へ行こう!」を合言葉に発酵のプラットフォームを目指してスタート。醸造メーカーと生活者をつなぐ取り組みになればと発酵食大学を運営しています。今は金沢校・京都校・東京校でも講師を努めています。
取得資格:女子栄養大学 食生活指導士、フードコーティネーター

YouTube「発酵食大学」で、「簡単で美味しくてヘルシー」な料理を提案中

 

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