蔵元探訪

伝統の酒造りスピリットを守りながら 「常に前よりいいもの」へと挑戦

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京都の酒造りは大陸から伝わり、室町時代から大きく発展。名水に恵まれた伏見の地には、時代の波を乗り越えた酒蔵が今も味と技を継承しています。その伏見で最も古い酒蔵のひとつが「北川本家」。同蔵で20年前から「杜氏」を務めるのが田島さんです。

酒造りがまだ地方からの出稼ぎ集団による「杜氏制度」だった頃から修業を重ね、知識や技術はもちろん、そこに息づく精神性も学んだという田島さん。発酵食大学で「わかりやすく面白い」と評判の講義の元となる、酒造りの心構え、伝えたい思いを伺いました。

■北川本家・杜氏 田島善史(たしまよしふみ)さん
1962年滋賀県生まれ。大学の農学部で学んだ後、株式会社北川本家に入社。1999年に同蔵の杜氏に就任。2004年の全国新酒鑑評会で杜氏として初の金賞受賞。以来、18年間で10回の受賞を重ねる。2014年には、京都市伝統産業「未来の名匠」に認定。

酒蔵の1年

当蔵の1年は、10~3月が日本酒造り、4~5月は米焼酎造り、6月は梅酒造り、7~8月は蔵や設備のメンテナンス、9月は酒造りの準備。最盛期の11~2月には、蔵に泊まることもあります。酒造りの工程では、一麹、二酛(もと)、三造りといわれるように、米の麹菌を繁殖させて作る「麹」造りが最も大切。米の中心部までしっかりと麹菌が入った良質な麹をつくるために、温度や湿度管理をしながら、2人体制で48時間付きっきりで作業します。もちろんデータはありますが、頼り過ぎていては急な変化に対応できません。菌は生きていますから、予測できないことも起こるんです。でも日々麹にふれていると性質がわかってくる。その経験によって対処できることが多いんです。

酒造りは伝統工芸のような職人技といわれますが、杜氏一人では酒造りはできません。実はチームプレイの仕事で、当蔵では10人が関わっています。その10人が同じ目標に向かって力を合わせていくと、10人分以上のパワーが結集したものができる。そこに大変さと同時に面白みがあるんです。僕の仕事は一人一人の力を最大限に引き出すことだと思っています。

かつての杜氏さんは「おやっさん」と呼ばれる絶対的な存在で、醸し出すオーラもすごかった。人事権を掌握し、酒造りや蔵人に対してすべての責任も負っていました。でも、僕は一社員であり、ごく普通の人間なのでそこまでの存在感は出せません。できることは蔵の中の誰よりも働くことぐらい。トイレ掃除もなんでも率先してやります。誰かがその後ろ姿を見ていてくれればいいんです。ただ、何が正解かわからない酒造りの中で、「みんなが迷ったときには白黒をつける」という覚悟だけは常に持っています。

ものづくりの心構え

酒蔵にとっては、酒の出来が生命線。完成度が評判も売上も左右する。やはり、試飲会や蔵開きでお客様に「おいしい」と言っていただけるとほっとしますね。当蔵の酒の持ち味は、飲み飽きしない上品な食中酒。だからといって、毎回同じことは絶対にやらないし、「常に前よりいいものを」と工夫する。それをモットーとしています。いいものを作るために、温度や湿度などを管理しながら、どこまで発酵具合を進めるか、甘みと酸味のバランスをどこに持っていくか、などいろんな挑戦をし続けています。

酒造りの難しさは、原料の米の状態が毎回違うという点。同じ品種でも、育ってきた環境・天候によって特性が変わってきます。それぞれの米の特性を見定めながら、慎重に酒造りを進めています。昨今は、辛めより甘め、際立った風味よりも料理に上手くなじむ味が求められるので、そうした点にも気をつかっていますね。

これから目指すもの

酒造りをやり始めた頃は簡単だと思っていたことが、やればやるほどわからなくなり、知れば知るほど奥深さを感じます。昔の杜氏さんが代々守り、50~60年かけて身に付けていた経験がものすごく大事なんだなと、年々思うようになっています。自然も深いし、人も深い。そのすべてが含まれているのが「酒造り」なんです。2014年、僕自身が京都市伝統産業「未来の名匠」に認定されたことをきっかけに、こうした酒造りの面白さや奥深さを次世代に伝えていきたいと考えるようになりました。


蔵見学の様子(発酵食大学京都校)

昔と比べて、酒造り業界は急速な変化の時代に入っています。年々、酒の会やイベントが増え、お客様と直に接する機会が多くなってきました。今、造り手に求められているのは、どういう思いで酒造りをしているのかをしっかりと発信すること。発酵食大学での講義もそのひとつです。お客様が何を知りたがっているのか、どのように伝えたらわかってもらえるのか、毎回必死です(笑)。シンプルでわかりやすく専門用語をなるべく使わないように、とか。そのプロセスで酒造りが頭の中で整理できるので、僕自身の勉強にもなりますね。また、蔵見学でしぼりたてのお酒を飲んだときの「おいしい」という声、そうしたお客様の反応が私たちのモチベーションになっています。今後も造り手と飲み手のこうした交流がますます活発になっていくでしょうし、日本酒のまた新しい世界が広がっていく予感がしますね。


田島さんの講義の様子(発酵食大学京都校)

田島さんの日本酒に親しむためのアドバイス

 まずは楽しみながら、いろんな日本酒を試してみてください。その中で自分の好みのお酒がわかってくると思います。気に入ったお酒があれば、いろんな温度帯で飲んでみても良いでしょう。実は日本酒は、何もブレンドせずに冷から熱燗まで幅広い温度帯で楽しめる世界でも珍しいお酒。一般的な冷や(20℃前後)、ぬる燗(40℃前後)、熱燗(50℃前後)のほかに、雪冷え(5℃前後)、花冷え(10℃前後)など、5℃刻みで10段階の呼び名があるのも日本酒文化の奥深さです。同じお酒が温度帯でどのように変化するのか試してみると面白いですよ。また最近、頻繁に開催されている日本酒イベントでの飲み比べもおすすめです。女性の場合、食事と組み合わせて日本酒を楽しむ方も増えています。当社の「富翁」はクセのない上品な味わいの中に、食事中の口内をさっぱりとさせる「酸味」を絶妙に効かせています。お酒の好みがわかったら、食中酒として取り入れてみると、さらにその楽しみ方が広がりますよ。

▼伏見の酒イベント情報はこちら
伏見酒造組合サイト http://www.fushimi.or.jp/

株式会社 北川本家について

歴史

兵庫県・灘と並ぶ日本酒の主産地、京都府・伏見で、江戸時代初期の1657年(明暦3年)に創業。「鮒屋(ふなや)」の屋号で船宿を営み、宿泊客に自家製の酒を提供したのが始まりとされています。当時の文献には80軒余りの蔵が記載されていましたが、現存するのは当蔵ほか1社のみ。現在、14代目当主が受け継ぐ、京都屈指の老舗酒蔵です。全国新酒鑑表評会においての金賞受賞歴は18回(2019年現在)。1999年には、長年にわたった杜氏蔵人制度による酒造りを廃止し、杜氏社員制度に転換。以来、田島善史氏が杜氏を務めています。

伏見の酒

古くから良質な湧き水に恵まれ、酒造地として発展した伏見。水質は中硬水で、ほどよくミネラルを含みますが、鉄分が少ないのが特徴です。そのため、日本酒の製造工程では比較的おだやかに発酵が進み、やさしい口当たりに仕上ります。ミネラル分が多い硬水を原料とする灘の酒が、その荒々しい飲み口から「男酒」と呼ばれるのに対し、伏見の酒は「女酒」といわれています。

北川本家の酒の特徴

すっきりと上品な飲み口で食事の味を引き立てる「食中酒」として知られています。10代目当主が名付けた酒銘「富翁」(とみおう)は、中国の四書五経に記された「富此翁」(心の豊かな人は晩年に幸せになる)との言葉からとられたもの。飲む人の心を豊かに充足させる酒をつくりたいとの意味が込められています。近年では、地元産の酒米を使った京ブランド認定の「富翁 純米吟醸 丹州山田錦」や、フレンチなどの洋食にも合う「富翁 純米酒 プルミエアムール」など、さまざまな開発にも挑戦しています。

■株式会社 北川本家
住所:京都市伏見区村上町370番地の6
URL:http://www.tomio-sake.co.jp/
オンラインショップ:http://www.shop-tomio.com/

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